日本生物地理学会 2008年度大会ミニシンポジウム

次世代にどのような社会を贈るのか?

2008年4月13日(日)15:00-18:00
立教大学7号館 7101号室(〒171-8501 東京都豊島区西池袋3-34-1)


[趣旨] (森中 定治)

  昭和3年(1928年),鳥類学者の蜂須賀正氏と当時生物地理学の第一人者であった渡瀬庄三郎によって 日本生物地理学会が設立された.

  蜂須賀正氏は,平成15年(2003年)に開催された生誕百年の記念シンポジウムにおいて ”型破りの人” との評がなされたが,自己の信念と哲学に基づいて時代を駆け抜けた人であった. 渡瀬庄三郎は,区系生物地理学における旧北区と東洋区の境界を示す”渡瀬線”によって著名である. 特定外来生物として昨今問題になっているジャワマングースを移入したが, 当時困っていた野鼠やハブの被害を防ぐために生物学の知識を社会に役立てようと 積極的に活動した強いパワーの持ち主であったことは否めない. 日本生物地理学会創設者のこのようなひととなりを考えたとき,学問としての枠に留まることなく, 生物学を社会に役立てることができればと思う.生物学に関するフォーマルなシンポジウムの他に, このミニシンポジウムをもつのはこのような理由による.

  昨年は,日頃大変お世話を頂いている立教大学理学部の上田恵介先生に動物行動学の視点から現社会の病巣 ”いじめ,差別,戦争”そしてその根源に横たわる帰属性といった事柄について踏み込んでいただいた. また,国立環境研究所の西岡秀三先生には,全人類が一丸となって取り組まねば解決できない”地球温暖化” について,その最新の地球環境の変化や人類の取り組みの状況についていお話し頂いた.

  人間の意思,意欲は白紙から生じるのではなく, 生物学的な出自つまり動物としての長い生の営みで身につけた様々の特性が大きく影響し, 科学の発展と相俟って現在の繁栄を築きもしたが,同時に差別や戦争など現代社会の病へも, そして”地球温暖化”へも我々を案内してきたように思う.人類がこれらの難病に打ち勝つには, 何が我々を突き動かすのかそれを知ること,つまり科学としての知を深めること,そしてその知を要時に活かし, 要時に抑える理性,この両方のバランスのとれた進歩が必要であり,これが人間の成長ではないかと思う. 人間のもつ理性は成長するか? この問いに答えた人がいた.プロシアの哲学者ヘーゲルである. しかしヘーゲルは,「科学とは何か?」との問いに,現代の科学者であればだれもが知っていよう”反証可能性” というひとつの答えを見出した科学哲学者カール・ポパーからの一方的な激しい非難を受けた. なぜこんな事になるのか大変残念に思う.この二人に和解の道はないのか, 哲学者でも歴史学者でもないが現代を生きる一人の人間として私なりに考えてみたい.

  本年は,日本哲学会の会長を務められ,環境倫理学,生命倫理学, 戦争倫理学などに関する多数の著作をもつヘーゲル哲学者の加藤尚武先生に, 「未来を脅かすもの ―温暖化と資源―」と題して地球環境問題を中心に人類に行く末についてご考察を頂く. さらに,国連軍縮会議議長,少子化・男女共同参画担当大臣を務められ, 戦争否定の意思に包まれた戦争学の教科書ともいうべき「戦争と平和」の著者であり, またごく最近「くにこISM」を出版された衆議院議員の猪口邦子先生に「戦争と平和と子どもたち」 と題して今後の日本,世界そして人類の進む道をお話し頂く.

  我々は,どういう社会を今後の世代に贈るのか贈りたいのか, お二人の演者にリラックスして存分にお話し頂きたいし, 我々もまたリラックスしてお話を拝聴したい.